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[100日後に死ぬワニ] 版権元 株式会社ベイシカ中尾恭太社長に独占インタビュー「クリエイティブを最優先したマーケティング戦略」
「100日後に死ぬワニ」とは
「100日後に死ぬワニ」は、イラストレーターのきくちゆうきさんにより、2019年12月12日から100日間にわたりTwitter上で連載された4コマ漫画。連載開始時に約1万人だったフォロワーは最終回の3月20日までに210万人を突破。驚異的なスピードで拡散され、社会現象となった。
「100日後に死ぬワニ」の版権元として、商品化等を取りまとめるベイシカ(東京都港区)の中尾恭太社長に電話インタビューを実施。これまでの経緯や今後の展開について聞いた。
連載開始から2週間でマネジメント契約
編集部:「100日後に死ぬワニ」に携わることになったきっかけは?
中尾社長:作者のきくちゆうきさんとは、もともとのつながりはなかったのですが、共通の知人から紹介を受けてマネジメントをすることになりました。
2019年12月12日に第1回目の投稿があり、初回から1000リツイートを超える大きな反響がありましたので、僕もTwitter上で作品を読んでいました。きくちさんを紹介されたのが12月26日で、12月28日にプロデュース契約を結びました。
編集部:ものすごいスピード感ですね。
中尾社長:12月の時点で、すでにたくさんの案件がきくちさんに来ていて、きくちさんはそれまでフリーランスで1人で活動していましたから、マネジメントに困っていました。
作品が素晴らしいということはわかっていましたし、是非弊社がマネジメントのお手伝いをしようとすぐに決めました。
そのときのフォロワー数は24〜25万人。それを100万人規模にまでもっていこうと目標を設定し、戦略を立てました。
100万人に知ってもらいたい
編集部:すぐに戦略を決めたんですね
中尾社長:Twitterで30〜40万人のフォロワーがいればキャラクタービジネスは成立します。でも、僕らはこの「100日後に死ぬワニ」を、Twitterの中にとどめず、もっと多くの方に知ってもらいたいと思いました。
具体的には、まず「日経MJ」など、新聞媒体への露出を図りました。新聞に出ると、今度はテレビ番組の取材のオファーが来るようになり、非常に多くの方に知ってもらうきっかけとなりました。
テレビで最初に取り上げてくださったのは、民放の報道番組でした。
1月15日の放送で、まだコロナの話題は出ておらず、オーストラリアの火災や香港のデモなどが大きく報道されていたときです。ニュースでは日頃より、「死」を伝えることが多いです。我々は常に死ととなり合わせの中で生きているということを再認識させられるという着目をいただき、「100日後に死ぬワニ」が取り上げられました。
「100日後に死ぬワニ」のフォロワーは30〜40代の男性を基礎として、各世代へ拡がり始めました。作品のテーマである「死生観」に共感した人たちの支持を得ています。
中尾社長:テレビで紹介されたことでフォロワー数がさらに増え、今度はゴールデンタイムのテレビ番組「行列のできる法律相談所」などでも取り上げられました。
フォロワー数が増える、またテレビで取り上げられるという好循環で、フォロワー数はあっという間に100万人を超えていきました。
連載中は商品化情報を一切出さない
編集部:メディア戦略がすごく上手くいったんですね。
中尾社長:そうですね。その中で一貫して決めていたのは、「100日後に死ぬワニ」の連載中は商品化情報を一切出さないということです。商品化を進めていたライセンシーメーカーにも、徹底してそのルールは守っていただきました。
唯一、連載中に発売したのはLINEスタンプのみ。LINEスタンプの発売は、新聞やテレビと同じようにメディアのひとつであると考えて、戦略的に行ったことです。
目的はスタンプの売上ではなく、さらに多くの人に「100日後に死ぬワニ」を知ってもらうこと。結果は大成功で、発売開始から24時間で約3万個を販売し、クリエイターズスタンプで1位を獲得。2月の月間MVP「トップクリエイター部門」を受賞しました。
中尾社長:Twitterのフォロワー数は、さらにさらに増えていきました。普段はTwitterをしない人でも、「100日後に死ぬワニ」を見るためにTwitterを開くという人がたくさんいたようです。
3月を迎えて、いよいよ100日目が近づいてくるとメディアからの取材依頼が殺到。
「ワイドナショー」「スッキリ」「ZIP!」など、作者のきくちさんは2週間で10本ほどのメディアに出演しました。
また、若いファンもついてきて、YouTubeの「はじめしゃちょーチャンネル」とのコラボ企画も実施しました。
そして、フォロワー数はついに200万人を突破。驚くような、社会現象となっていきました。
正直なところ、これほどまでに盛り上がっていくとは想像していませんでした。人はいつ死ぬかわからないという、作品に秘められたメッセージに多くの人が心を動かされた結果だと思います。
ワニロスで悲しみにくれることがないように
編集部:Twitterフォロワー200万人超えはすごいですね!
中尾社長:最終的には220万人にまでフォロワー数はふくれあがりました。
ものすごい勢いで一気に盛り上がって、このあとに必ず〝ロス〟が来る。そのロスがやってきたときに、次の情報があったほうがいいと考え、最終回の3月20日に情報解禁を設定していました。
編集部:連載終了直後の商品化などの発表については、賛否両論ありましたが…
中尾社長:たしかに情報解禁のタイミングについて、ネガティブな意見もありましたし、いろいろな考え方があったと思います。でも実際には発表のタイミングは1つしか選べないので、僕としては、やっぱり作品が終わったときにグッズがあって良かったと思っています。多くのファンも喜んでくれました。 ロフト3店舗で3月21日から開催した「追悼POP UP SHOP」には、初日から大変たくさんの方が来店し、たくさんのグッズを購入していかれました。コロナウイルスの影響が出始めた難しい時期であったにもかかわらず、スタートの1週間で売上は2200万円。100話目を迎えたタイミングでグッズを求める人が多くいた、ということが数字にあらわれています。
僕たちは、本や映画、グッズを通して、読者の方々の心では、ワニが残り続け、愛され続けてほしいと強い想いを持って、このプロジェクトに向き合ってきました。
その思いはこれからも継続して、取り組んで参ります。
中尾社長:最終回と同日の3月20に公開した「いきものがかり」とのコラボ映像はエンディングムービーのような位置づけで、それから、書籍化や映画化、商品化の情報を発信していきました。
今回のプロジェクトにたずさわった人たち全員が、ものすごくがんばって奇跡的なスピードで、来たる100日目に向けて様々なことを進めていきました。ライセンシーの方々、皆様が本当にがんばっていただき、驚くような早さで続々と商品が上がってきました。
既成概念を打ち破る挑戦
編集部:皆さんが、がんばったんですね。
中尾社長:今回、僕らが挑戦したのは、これまでのキャラクタービジネスに新たなプラスαをしたやり方です。権利をホールドするのではなくて、一緒に作品を盛り上げてくれる『人』を選んで、裁量権を預けていきました。『会社』ではなくて『人』。密に情報を交換しながら、それぞれの持ち場で、ワニを盛り上げるための判断をスピーディーに行えるような体制を作りました。
たとえばポップアップショップを展開したロフトとの取り組みも、流通が得意な1人の人に任せました。ベイシカの社員ではない人に、ロフトとの交渉からすべてを任せました。
コンビニエンスストアでのコラボなどもそうで、今までの常識ではないプロジェクトの組み方をしています。
この作品を100日間でどこまで盛り上げられるかということだけを考えて、信頼関係の中で全速力で進めていきました。
中尾社長:良い作品であっても、うまくいかない作品というのは世の中にいっぱいあって、その理由のひとつは機を逃してしまうことだと思うんです。意志決定のスピードや、複雑さに問題がある。僕自身、そういう経験もしてきました。
何より、きくちさんが作品をホールドしないで、僕らを信頼して任せてくれたからこそ実行することができたやり方です。
クリエイティブファーストで迎えた100日目
編集部:作者のきくちさんと以前からの知り合いというわけでもなく、100日の間にその信頼関係ができたのはすごいことですね。
中尾社長:作品が素晴らしいということはわかっていましたし、きくちさんを裏切るようなことは絶対にできません。
少し前の話題になりますが、吉本興業が「芸人ファースト」でないと言われたことがありましたよね。それはキャラクターも同じで、座組み優先で、作品に口出しするようなクリエイティブではダメだと思っています。
ビジネスファーストではなく、クリエイティブファーストな在り方をこれからの当たり前にしてきたいです。
「100日後に死ぬワニ」に関しては、商品を売るためにどうこうということは一切ありません。僕らは、きくちさんの才能を信じ、それを一人でも多くの人に届け、喜んでもらえる企画をしっかりとプロデュースしていこうという信念で、ここまでやってきました。
作品はこれからも生き続ける
編集部:今後の展開について教えてください。
中尾社長:4月に開催するはずだった展覧会がコロナの影響で6月下旬に延期になってしまったりと、春先からの予定が全てずれてしまっているのですが、百貨店催事やポップアップショップの全国巡回など、たくさんの計画があります。世の中がコロナから復活し次第、スタートしていく予定です。
映画化も決定しています。公開時期は調整中ですが、随時詳細を発表できればと思っています。
編集部:映画化ということは、ワニの物語は続いていくのですか?
中尾社長:内容については未発表ですが、構想としてはいろいろあります。映画ならではの魅力ある作品にしていきますので、是非楽しみにしていただけたら嬉しいです。
編集部:商品化についても教えてください
中尾社長:契約ライセンシーは商談中の企業も含めれば約30社。展開アイテムは約400種です。
ただ僕らとしては、ライセンシーが何社ということよりも、作品の価値を最大化するということを考えてやってきました。
具体的に言えば、この100日の間にワニを好きになってくれた人に喜んでもらうこと。ワニが僕らに気づかせてくれたことは、たくさんあります。まだ、この作品を知らない人たちにも、その魅力を伝えること。そのためにできることをやっていきたいと思います。
キャラクター業界に明るい話題を提供していきたいと思いますので、ぜひご期待ください。
株式会社ベイシカ 代表取締役 中尾恭太氏
2006年(株)バンダイ入社。キャラクターライセンス業務、カードゲームの企画開発、プロモーションなどを担当。2011年、ソフトバンクモバイル(株)(※現ソフトバンク株式会社)に移籍し、スマートフォンのマーケティング・クルー向けの研修プログラム立案などに従事。2014年からは、株式会社ILCAにて映像を起点にしたメディアミックス企画を仕掛ける。2017年、キャラクタープロデュースに特化した法人、株式会社ベイシカを設立。
(電話インタビュー:2020年4月14日)
Ⓒ STUDIO KIKUCHI
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